カスハラ対応マニュアルの作り方|厚労省2026年改訂版に沿った記載項目
2026-09-18

カスハラ対応マニュアルに決まった様式はありません。ただし、書くべき中身は厚生労働省の指針でほぼ決まっています。その指針を企業向けに具体化した「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」は、2026年9月8日に令和8年度改訂版へ更新されました。
もう1つ、見落とされやすい点があります。指針が想定しているマニュアルは1つではありません。 顧客に対応する従業員向けと、相談窓口の担当者向けの2つです。
本記事では、改訂版が示す記載項目を3つの柱で整理します。そのうえで記録の様式、2つ目のマニュアルの書き分けまで順に見ていきます。
▶ 関連記事:【10月1日施行】カスハラ対策の義務化で何をすればいい?準備の順番と措置義務
1. カスハラのマニュアルは「顧客対応」と「相談対応」の2つが想定されている
厚生労働省の指針がマニュアルに触れているのは2か所です。事業主が講じなければならない10の措置のうち、②と④にあたります。
| 措置 | 誰のためのマニュアルか | 書く中身 |
|---|---|---|
| ② カスハラの内容および対処の内容を、労働者に周知する | 顧客に対応する従業員 | 自社の判断基準と、初期対応・類型別対応・内部手続の手順 |
| ④ 相談窓口担当者が、適切に対応できるようにする | 相談を受ける担当者 | 相談対応の留意点、連携先、プライバシー保護の手順 |
どちらも、条文が「マニュアルを作れ」と定めているわけではありません。義務なのは措置のほうで、マニュアルはそれを満たす手段として挙げられています。裏を返すと、片方の措置だけを見て1冊にまとめると、もう片方は別の手段で満たす必要が残ります。

厚労省の企業マニュアルは2026年9月8日に改訂されている
指針を企業向けに具体化した資料が「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」です。令和3年度に作成されたものが、2025年6月の法改正の内容を反映する形で更新され、令和8年度改訂版として2026年9月8日に公開されました。
検索して出てくる解説記事の多くは、改訂前の版を前提に書かれています。手元にPDFがある場合は、表紙に「令和8年度改訂版」と入っているかを先に確かめてください。10の措置を①〜⑩で整理した章(P.18〜)は、改訂版で加わった部分です。
なお改訂版には、令和8年度内に企業へのヒアリングを行い、その内容を追記して再改訂する予定と書かれています。いま作るマニュアルは、改訂される前提で版を管理しておくほうが手戻りが少なくなります。
(出典:カスタマーハラスメント対策企業マニュアル(令和8年度改訂版)|厚生労働省)
2. 顧客対応マニュアルに書く3つの柱
改訂版は、従業員に周知する「対処の内容」の例として3つを挙げています。現場での初期対応、類型別の対応例、内部手続です。この3つが顧客対応マニュアルの骨格になります。
その手前で決めるものが1つあります。自社にとって何がカスハラかという判断基準です。改訂版は、業種や業態の違いを踏まえてあらかじめ定めておくことが求められるとしています。基準の立て方は【カスハラの定義3要素】該当する言動の例と判断のしかたを解説で整理しています。

(1)現場での初期対応の方法・手順
改訂版が示す手順は3ステップです。
- 対象となる事実、事象を明確かつ限定的に謝罪する:「不快な思いをさせてしまい、誠に申し訳ありません」のように対象を限定します。状況を把握できていない段階で非を認める発言は望ましくないとされています
- 状況を正確に把握する:発言を遮ることや反論はせず、ひと通り事情を確認します。勘違いがあれば正しい情報を提供します
- 現場監督者または相談窓口担当者に情報共有する:要望だけでなく、事実関係を時系列で整理して報告します
一緒に書いておきたいのは、やってはいけないことのほうです。改訂版は、正当な申入れを即座にカスタマーハラスメントと決めつけることは絶対に避けなければならないと明記しています。判断基準を配ると、現場は過剰に線を引く方向へぶれます。歯止めも同じ文書に入れておきます。
(2)類型別の対応例
言動のパターンごとに、その場で取る行動を先に決めておく部分です。改訂版は「言動の内容」と「手段や態様」の2系統で類型を並べ、それぞれに対応例を付けています。
| 類型 | 対応例 |
|---|---|
| 想定しているサービスを著しく超える要求 | 契約書や約款等を提示して対応可能な範囲を説明する。繰り返されれば「これ以上の対応はできない」と明確に意思表示する |
| 不当な損害賠償要求 | 根拠や因果関係を確認し、自社に責任がないことを整理・説明したうえで断る |
| 精神的な攻撃(侮辱・人格否定) | 後で事実確認ができるよう録音し、程度がひどい場合には退去を求める |
| SNS等への投稿をほのめかす脅迫 | 処罰を望む場合は警察に通報する。削除を求めたい場合は法務局等に相談する |
改訂版は、業種や業態によって対応方針は異なるとしています。表はそのまま写すものではなく、自社の業務形態に合わせて作り直す前提のたたき台です。
(3)内部手続(報告・相談、指示・助言)の方法、手順
現場だけでは終わらない案件を、どこまで上げるかの取り決めです。改訂版が挙げる判断基準の例は、訴訟手続きが必要となる場合と、警察や地方自治体等の社外の組織と連携が必要となる場合の2つです。
ここには実務でありがたい注記が付いています。カスタマーハラスメント対応と苦情対応とで切り離して体制を整える必要はない、というものです。苦情対応の延長としてカスハラの相談も受けられるようにしておけば、既存の体制を活かせます。ゼロから別系統を立てる話ではありません。
3. 対応の引き継ぎで時間をかけないように、記録の様式まで決める
手順を書いても、引き継ぐときに何を渡すかが決まっていないと現場は止まります。改訂版は、本社・本部へ対応を引き継ぐ際に共有する項目を「対応状況確認事項(例)」として6つ挙げています。
- 対応日時、場所
- 対応従業員
- 顧客等からの要望の内容
- 顧客等の情報
- 現場監督者の指示
- 対応結果
この6項目を空欄のフォーマットにして巻末に付けておくと、報告の粒度が人によってぶれなくなります。改訂版も、いつ・どこで・どのように対応し、その結果がどうだったかを時系列で整理しておくと、引き継いだ担当者が動きやすいとしています。

マニュアルの粒度が結果を分けた裁判例
改訂版は、対応が十分でなく安全配慮義務違反が認められた例(長崎地裁 令和3年1月19日判決)と、認められなかった例を並べて紹介しています。後者はコールセンターの事案です。
コミュニケーターとして働いていた従業員が、視聴者からのわいせつ発言や暴言に触れさせない義務に法人が違反したとして、損害賠償を求めました。この法人は対応手順(マニュアル)を作成・周知しており、次のところまで認められていました。
- わいせつ電話は、転送指示を待たずに直ちに上司であるスーパーバイザーに転送する
- 同じ日における同一人物からの2回目以降のわいせつ電話は、コミュニケーターの判断で即切断する
- 電話で大声が出されるような場合は、ヘッドセットを外す、または転送する
裁判所は、従業員の心身の安全を確保するためのルールを定めて対応を行っていたとして、安全配慮義務違反を認めませんでした(東京高裁 令和4年11月22日判決)。
分かれ目は、「毅然と対応する」で止めずに、誰が・どの条件で・何をしてよいかまで書けているかです。 「即切断してよい」という判断を現場に渡すには、2回目以降という条件と、判断してよい人を先に決めておく必要があります。この粒度がマニュアルの実効性を決めます。
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4. 相談窓口担当者向けのマニュアルは別に用意する
2つ目のマニュアルです。措置④が求めているのは、相談窓口担当者が内容や状況に応じて適切に対応できる状態を作ることです。改訂版はその手段として、関係部門と連携できる体制、具体的な対応方法をまとめたマニュアル、定期的な研修の3つを挙げています。
顧客対応マニュアルと分ける理由は、向き合う相手が違うためです。顧客対応マニュアルの読者は顧客に向き合い、相談対応マニュアルの読者は従業員に向き合います。書き分けるところは主に3つあります。

- 受ける範囲を広く取る:現実に生じている場合だけでなく、発生のおそれがある場合や該当するか判断がつかない場合も、幅広く相談に応じるよう改訂版は求めています。窓口で該当性を判定して門前払いする運用は、この求めから外れます
- 連携先を先に書いておく:人事労務部門、法務部門、カスタマーサービス部門、弁護士等の外部機関が挙げられています。どの状況で誰につなぐかを決めておくと、担当者が抱え込まずに済みます
- 聞き方と、緊急時の接続先:改訂版は、傾聴の姿勢が重要で詰問にならないよう留意するとしています。相談者から自殺を暗示する言動があった場合は、人事部門と連携して直ちに産業医や産業カウンセラー等の医療専門家につなぐことも明記されています
相談者のプライバシーを保護するための手順も、この文書に入れます。指針は、保護に必要な事項をあらかじめマニュアルに定め、担当者はそれに基づいて対応することを、措置を講じた例として挙げています。
窓口そのものの設置方法はカスハラの相談窓口はどう作る?設置方法と必要な準備で整理しています。
手元のマニュアルをどう直すかから相談したい場合は、お気軽にお問い合わせください。
5. 決めた手順どおりの記録が自然に残る「GMO即レスAI for CS」
マニュアルを作ったあとの壁は、書いたとおりに運用されたかを後から確かめられないことです。非対面の窓口では、ここがとくに弱くなります。通話録音を運用していない電話や、残し方が担当者ごとに違うメールでは、6項目のうち埋まらない欄が出てきます。
GMO即レスAIは、AIチャットボットの導入効果を最大化する導入支援サービスです。CS業務に特化した「GMO即レスAI for CS」では、AIが一次対応を受け持ち、やり取りはそのままログとして残ります。人の対応が必要な場面では、会話の文脈を保ったまま有人チャットへ切り替わり、チケットとして一元管理できます。対応日時・要望の内容・対応結果といった項目が、日々の対応の延長で揃っていきます。
設計の土台には、GMOペパボが778万人以上の顧客対応で培ったCS(カスタマーサポート・サクセス)運営の知見があります。CS出身のメンバーが、対応フローの設計から記録が残る運用の立ち上げまで伴走します。
一方で、マニュアル本体の文書化や社内規程の整備は、人事や法務の領域です。AIで完結する部分ではありません。向いているのは、電話・メール・Webでの問い合わせが一定量あり、手順を決めても記録の残り方が担当者任せになっている企業です。
6. カスハラのマニュアルに関するよくある質問(FAQ)
Q. カスハラ対応マニュアルの作成は義務ですか?
A. マニュアルの作成そのものを義務づけた条文はありません。義務は改正労働施策総合推進法 第33条第1項が定める措置のほうで、厚生労働省の指針はマニュアルをその措置を満たす手段の1つとして挙げています。
Q. 厚生労働省のマニュアルはどこで入手できますか?
A. 厚生労働省のサイトで「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル(令和8年度改訂版)」として公開されています。2026年9月8日の掲載です。令和8年度内に、企業へのヒアリングを踏まえた再改訂が予定されています。
Q. 公開されているひな形をそのまま使ってよいですか?
A. 出発点としては使えます。ただし改訂版は、判断基準も対処の内容も、業種・業態や従業員の実態に応じて自社で定める必要があるとしています。とくに類型別の対応例は、自社の業務内容や対応体制に合わせて用意することが求められています。
Q. BtoB企業もマニュアルが必要ですか?
A. 必要です。改訂版は、カスハラでいう「顧客等」に取引の相手方等を含むとしています。そのうえで、BtoC企業だけでなくBtoB企業を含め、業種・業態を問わずすべての事業主が取り組む必要があるとしています。
Q. 既存の苦情対応マニュアルとは別に作るべきですか?
A. 分けなくてかまいません。改訂版は、カスハラ対応と苦情対応とで切り離して体制を整える必要はないとしています。苦情対応の延長として相談に対応できるようにしておくほうが、体制構築の負担は少なくなります。
7. マニュアルづくりにお悩みではありませんか?
「ひな形は集めたが、自社の業務にどう当てはめるかで止まっている」「手順は書いたのに、現場では前と同じ対応が続いている」。施行日を前に、こうした相談が増えています。
GMO即レスAIでは、問い合わせ対応の設計から、手順どおりに動いたかを振り返れる記録づくりまで、CS出身のメンバーが伴走します。いま手元にあるマニュアルの、どこが埋まっていないかを見るところからご相談ください。
最後までお読みいただきありがとうございました。