カスハラ研修は何を教える?対象者別の内容と指針が求める範囲
2026-09-17

カスハラ研修そのものは、法律で義務づけられていません。研修という言葉が出てくるのは条文ではなく指針のほうです。しかも5か所すべてが「措置を講じていると認められる例」として挙げられています。研修をやらない場合は、同じ措置を別の手段で満たすことになります。
そして指針を対象者で読み替えると、教える内容は3層に分かれます。全従業員、相談窓口の担当者、事業主と役員自身です。もう1つ、「自社が加害者にならないための注意」が加わります。
本記事では、指針が研修を挙げている5か所を整理したうえで、誰に何を教えるか、実務で最も抜けやすいのはどこかを解説します。
▶ 関連記事:【10月1日施行】カスハラ対策の義務化で何をすればいい?準備の順番と措置義務
1. カスハラ研修は義務ではなく、措置を満たす手段の1つ
義務なのは措置のほうです。改正労働施策総合推進法 第33条第1項が事業主に求めるのは「雇用管理上必要な措置」で、研修という言葉は条文にありません。
研修が登場するのは指針(令和8年厚生労働省告示第51号)です。次の5か所で、措置を講じていると認められる例として挙げられています。
| 指針の措置 | 研修の対象者 | 教える内容 |
|---|---|---|
| 方針の明確化と周知・啓発 | 管理監督者を含む労働者 | 毅然とした態度で対応し労働者を保護する方針と、あわせて定めた対処の内容 |
| カスハラの内容と対処の周知 | 管理監督者を含む労働者 | カスハラの内容と、あらかじめ定めた対処の内容 |
| 相談に応じ適切に対応するための体制の整備 | 相談窓口の担当者 | 相談を受けた場合の対応 |
| 相談者等のプライバシーの保護 | 相談窓口の担当者 | プライバシーの保護のために必要な事項 |
| 再発防止に向けた措置 | 管理監督者を含む労働者 | 方針と対処の内容(発生を契機に改めて実施) |
(出典:事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和8年厚生労働省告示第51号)|厚生労働省)

研修は代替できるが、措置は代替できない
5か所とも例示なので、研修が唯一の手段ではありません。同じ措置については、社内報・パンフレット・社内ホームページへの掲載や配布も認められる例に挙がっています。
ただし措置そのものは義務です。研修を実施しないなら、方針と対処の内容が全従業員に届いた状態を別の手段で作る必要があります。届いたかどうかを確認できる形にしておくところまでが措置です。
5番目は「起きたあとに改めて」実施する枠
再発防止の措置には、方針と対処の内容を周知・啓発するための研修を改めて実施する例が入っています。発生を契機として実施するもので、定例の研修とは別枠です。
年1回の研修計画だけを組むと、再発防止の枠が抜けます。事案が起きたときに何を誰へもう一度伝えるかを、あらかじめ決めておくほうが動きやすくなります。
2. 対象者別に教える内容は3層に分かれる
指針の記述を対象者で並べ替えると、内容がはっきり分かれます。同じ内容を全員に流すと、どの層にも足りない研修になります。

全従業員(管理監督者を含む)
指針は、カスハラの内容と対処の内容を管理監督者を含む労働者に周知するよう求めています。管理監督者が明記されている点が実務では効きます。現場の判断を引き取る側が方針を知らないと、対応はその場の裁量に戻ります。
教える中身は、方針、カスハラに当たる言動の範囲、あらかじめ定めた対処の内容の3点です。線引きの考え方は【カスハラの定義3要素】該当する言動の例と判断のしかたを解説で整理しています。
相談窓口の担当者
担当者向けは別枠で2つあります。相談を受けた場合の対応と、相談者等のプライバシーの保護です。後者には、性的指向・ジェンダーアイデンティティ等の機微な個人情報の扱いも含まれます。
窓口の要件そのものはカスハラの相談窓口はどう作る?設置方法と必要な準備で解説しています。専任の担当者を置けない規模では、上司に当たる管理監督者が担当者になる形も認められています。兼任する場合は、全従業員向けと担当者向けの両方を同じ人が受ける設計になります。
事業主・役員自身
事業主の責務については、指針にこう書かれています。
また、事業主(その者が法人である場合にあっては、その役員)は、自らも、カスタマーハラスメント問題に対する関心と理解を深め、他の事業主が雇用する労働者に対する言動に必要な注意を払うように努めなければならない。
役員自身が対象に入っています。措置義務ではなく努力義務ですが、方針を掲げる側が理解していない状態は、現場から見れば方針が本物かどうかの判断材料になります。
もう1つの範囲:自社が加害者にならないための研修
第34条第2項は、労働者が他の事業主が雇用する労働者に対する言動に必要な注意を払うよう、研修の実施その他の必要な配慮をすることも事業主の責務としています。同条第4項では、労働者自身の責務にもなっています。
受けたときの対応だけを教える研修だけでなく、自社の担当者が取引先や委託先のオペレーターにどう振る舞うかも研修の範囲です。
3. 最も抜けやすいのは相談窓口の担当者向け
厚生労働省の実態調査では、顧客等からの著しい迷惑行為について相談窓口を設置・周知した企業が76.1%でした。一方、担当者が内容や状況に応じて適切に対応できるようにする手当てまで済んでいる企業は40.0%です。差は36.1ポイントあります。
| 取組内容 | 実施した企業の割合 |
|---|---|
| 相談窓口の設置と周知 | 76.1% |
| ハラスメントの内容・方針の明確化と周知・啓発(従業員向け研修等) | 61.5% |
| 経営幹部の関心と理解を深めるための周知・啓発(役員向け研修等) | 45.5% |
| 相談者・行為者等のプライバシー保護の措置(担当者への研修等) | 44.4% |
| 相談窓口担当者が適切に対応できるようにするための対応(マニュアルの作成、研修等) | 40.0% |
※いずれも、ハラスメントの予防・解決のための取組を実施している企業(n=5,023)に占める割合です。
(出典:職場のハラスメントに関する実態調査 結果概要(令和5年度厚生労働省委託事業)|厚生労働省)
同じ調査は、相談窓口の設置と周知がどのハラスメントでも最も高い取組だと指摘しています。窓口が先に立ち上がり、担当者の準備は後ろに残る形です。

担当者向けの研修に入れる3点
指針が担当者向けに挙げている内容は、そのまま研修の項目になります。
- 相談を受けた場合の対応:該当するか微妙な場合でも広く相談に対応する。判定して門前払いにしない。
- 関係部門との連携:内容に応じて法務・人事・現場の責任者へつなぐ経路を決めておく。
- プライバシーの保護:あらかじめ定めたマニュアルに基づいて対応する。機微な個人情報の扱いを含む。
1つ目が最も重要です。窓口が判定を担うと、相談は上がってこなくなります。判定は相談を受けた後の事実確認の段階で行うものだと担当者に伝わっているかは、研修の前に確かめる価値があります。
4. 非対面のカスタマーサポートは、研修の教材が集まりにくい
研修の設計でつまずくのは、教える項目ではなく教材です。指針の「望ましい取組」には、顧客等からの苦情への対応についての研修、商品やサービスについての研修、消費者の心理や障害特性等についての研修が挙げられています。いずれも自社の実例があるほど機能します。
ところが電話の一次対応では、通話録音を運用していなければ担当者の記憶しか残りません。何が起きたかを後から読み返せる形になっていないため、ケース教材が作れません。題材が一般論に寄る理由は、方針よりも記録のほうにあります。
メールとチャットは文面が残ります。ただ、メールは個人の受信箱に散り、チャットは対応が終わると流れていきます。教材として使うには、あとから探せる場所に集まっている必要があります。
対応の言い回しそのものはカスハラ対応はどうすればいい?現場を守る初動フローと言い回し例で整理しています。研修では、言い回しの型を自社の実際のやり取りに当てて練習する形が現実的です。
研修の設計や教材づくりから相談したい場合は、お気軽にお問い合わせください。
5. 研修の材料が自然に貯まる「GMO即レスAI for CS」
研修は、自社で実際に起きたやり取りを題材にできると定着します。題材づくりが、非対面のカスタマーサポートでは最初の壁になります。
GMO即レスAIは、AIチャットボットの導入効果を最大化する導入支援サービスです。CS業務に特化した「GMO即レスAI for CS」では、AIが一次対応を受け持ち、やり取りはそのままログとして残ります。人の対応が必要な場面では、会話の文脈を保ったまま有人チャットへ切り替わり、チケットとして一元管理できます。
研修の題材を探すときに、いつ何が起きたかを履歴から追えます。判断に迷った実例、対応が長引いた実例、方針どおりに切り上げられた実例。いずれも一般論より現場に届きます。
設計の土台には、GMOペパボが778万人以上の顧客対応で培ったCS運営の知見があります。CS出身のメンバーが、対応フローの設計から記録が残る運用の立ち上げまで伴走します。
一方で、研修の企画や実施そのもの、就業規則の整備は人事や法務の領域です。AIで完結する部分ではありません。向いているのは、電話・メール・Webでの問い合わせが多く、研修の題材にできる記録が手元に足りていない企業です。
6. カスハラ研修に関するよくある質問(FAQ)
Q. カスハラ研修は法律上の義務ですか?
A. 研修そのものは義務ではありません。義務は改正労働施策総合推進法 第33条第1項の措置で、指針は研修を「措置を講じていると認められる例」として挙げています。研修を実施しない場合は、社内報や社内ホームページへの掲載など別の手段で同じ措置を満たす必要があります。
Q. 全従業員向けと相談窓口の担当者向けは分けるべきですか?
A. 教える内容が違うため、分けて設計するのが確実です。全従業員向けは方針・カスハラの内容・対処の内容の3点、担当者向けは相談を受けた場合の対応とプライバシーの保護です。専任の担当者を置けない規模では、同じ人が両方を受ける形になります。
Q. 研修は年1回で足りますか?
A. 回数の定めはありません。ただし指針は、カスハラの発生を契機として、方針と対処の内容を周知・啓発するための研修を改めて実施する例を挙げています。定例の枠とは別に、事案が起きたときの枠を用意しておくと運用しやすくなります。
Q. 役員も研修の対象になりますか?
A. 対象です。指針は、事業主(法人の場合はその役員)が自らもカスハラ問題への関心と理解を深めるよう努めなければならないとしています。措置義務ではなく努力義務にあたります。
Q. 自社の従業員が取引先にカスハラをしないための研修も必要ですか?
A. 事業主の責務に含まれます。第34条第2項は、労働者が他の事業主が雇用する労働者に対する言動に必要な注意を払うよう、研修の実施その他の必要な配慮をすることを求めています。受ける側の対応だけでは範囲を満たしません。
7. カスハラ研修の設計にお悩みではありませんか?
「研修をやることは決まったが、何を教えるかが決まらない」「窓口は作ったのに、担当者に渡す資料がない」。施行日を前に、こうした課題を抱える担当者が増えています。
GMO即レスAIでは、問い合わせ対応の設計から、研修の題材に使える記録づくりまで、CS出身のメンバーが伴走します。いまある記録で何が作れるかを整理する段階からご相談ください。
最後までお読みいただきありがとうございました。