2026-10-16
【開催レポート】F-base、GMO即レスAI共催セミナー第2回:業務の棚卸しから始めるAI導入設計

2026年10月15日(木)、一般社団法人 福岡ビジネスイノベーション協会(F-base)、GMO即レスAI(GMOペパボ株式会社)の共催で、全4回シリーズの第2回セミナー「業務の棚卸しから始めるAI導入設計」を、F-base会場とZoomウェビナーのハイブリッドで開催しました。
「AIを導入したいが、自社のどの業務から手を着ければよいか分からない」というお悩みに向けて、GMO即レスAIの下之角が、GMOペパボのカスタマーサービス現場での実践をもとに、業務の見極め方と導入設計の進め方をお話ししました。本レポートでは、その内容をご紹介します。
開催概要
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| セミナー名 | 【第2回】業務の棚卸しから始めるAI導入設計 |
| 日時 | 2026年10月15日(木)16:30〜18:00(17:00 セミナー本編・オンライン配信開始) |
| 開催形式 | ハイブリッド(会場:F-base/オンライン:Zoomウェビナー) |
| 会場 | F-base(天神住友生命FJビジネスセンター8階) |
| 参加費 | 無料 |
| 共催 | 一般社団法人 福岡ビジネスイノベーション協会、GMOペパボ株式会社 |
| 登壇者 | 下之角 怜(GMO即レスAI 即レスAIチーム) |
登壇者紹介

下之角 怜
GMOペパボ株式会社 事業開発部 即レスAIチーム ディレクター
カスタマーサービス業界で10年以上従事した後、現在はGMO即レスAIのディレクターとして、企業や組織の現場とAI導入を進めている。
F-baseのご紹介
冒頭では、F-baseを運営する福岡ビジネスイノベーション協会から、協会とショールームについてご紹介いただきました。
協会は2026年5月に設立された一般社団法人です。フリー株式会社をはじめとする3社が運営パートナーとして参画し、体験を通じたビジネスイノベーション支援を行っています。AIやDXの導入に課題を抱える九州の企業に向けて、ショールームを活用して支援する場です。
非営利で運営しているため、押し売りのない中立な立場で情報を持ち帰れる点が特長です。ショールームには現在15区画の展示があり、GMO即レスAIのほか、補助金申請の支援、人材紹介・人材派遣、バックオフィスの業務DXなど、最新のAI技術を使ったサービスをワンストップで体験できます。
来場は協会ホームページからの事前予約制です。ヒアリングをもとに、企業の課題に合ったサービスを案内してもらえます。
セッション:業務の棚卸しから始めるAI導入設計
下之角のセッションは、次の4つのパートで進みました。
- 人の「待機時間」を見つける
- AIに任せる業務の見極め
- 導入設計で決める4つのこと
- よくある失敗と回避策
冒頭では、GMOペパボが展開する全11サービスで、問い合わせの一次受けを完全にAI化していることが紹介されました。対応コストと時間を大きく削減でき、カスタマーサービス担当者31名がリスキリングしてジョブチェンジを果たしたといいます。登壇者自身も、元カスタマーサービスの現場メンバーです。
1. 人の「待機時間」を見つける
前回(第1回)は、どの業務にどれだけ作業時間がかかっているかを書き出す話でした。今回、下之角が加えて見てほしいと話したのが、お客様をお待たせしている時間、つまり人が反応を待っている時間です。
問い合わせで最も多い不満は「返信が遅い」「待ち時間が長い」です。どんなに丁寧に、正確に答えても、待たせた時点で評価の対象外になりかねません。お客様がつらいのは、問題に当たっていて解決できていない時間だからです。
しかも、不満を伝えてもらえるのはごく一部です。何も言わずにサービスを離れた経験があるという回答は43.7%(Yahoo調査)に上り、現場に届く苦情は氷山の一角にすぎません。
GMOペパボでも、自社の定型対応を数えたところ、問い合わせの62%がすでにヘルプやマニュアルに答えのある内容でした。「書いてあるのにたどり着けていない」状態で、分かりやすいマニュアルを書くだけでは解けない課題があったといいます。

そこでGMOペパボが行ったのは、ナレッジの書き方や回答の質を上げることではなく、待ち時間そのものを消すことでした。AIがその場で回答して解決し、解決できなければ文脈を引き継いで有人対応につなぎます。お客様は同じ説明を繰り返さずに済みます。下之角は「長くカスタマーサービスに携わってきた中で、過去一番大きい価値提供だった」と振り返りました。
2. AIに任せる業務の見極め
棚卸しでは、業務名ではなく工程ごとに書き出すのがポイントです。「問い合わせ対応」と1行で書くと、AIに任せられるかどうかが判別できません。受付、調べる、判断する、返信する、記録を残す、と分解すると、調べる・返信を書くといったAIの得意な領域が見えてきます。判断は人に残す、という線引きができます。

書き出す項目は、「工程」「量と待機時間」「答えと判断」の3つです。
- 工程:1件を「受付→調べる→判断→返信→記録」のように分ける
- 量と待機時間:月の件数×1件の時間に加えて、相手を待たせている時間を書く
- 答えと判断:答えがどこにあるか、決まった基準で答えられるかを書く
答えが担当者の頭の中にしかない、いわゆる属人化した作業は、AIを入れる前にナレッジ化が必要です。この状況が分かるだけでも、棚卸しをする価値があると下之角は話しました。
棚卸しができたら、次は「効果」と「任せやすさ」の2軸で、最初に任せる業務を選びます。効果は「件数×1件の時間+待たせている時間」、任せやすさは「答えが資料にあり、基準が明確で、間違えても戻せるか」で見ます。

- すぐに任せる:件数が多く、答えがナレッジ化されている。最初はここに集中する
- ある程度準備が必要:件数は多いが属人化している。まずナレッジにしてから任せる
- 徐々に任せる:件数は少ないが定型的。①と並行して進められる
- 任せない:裁量や交渉、感情への配慮が要るもの。AIは要約や下書きにとどめ、人が送信する
GMOペパボでAIに任せられるようになった範囲は、次の3つです。
- 一次回答の即レス(よくある質問への24時間の回答)
- ナレッジの検索と要約(根拠を探して必要な部分だけを出す)
- 回答の叩き台づくり(過去の対応や契約情報を踏まえた返信文の下書き。人は確認と手直しをして送る)
海外事例:やめたのは「全部AIに任せる」設計
海外の事例として、スウェーデンの決済会社が紹介されました。2024年にAIエージェントを全世界向けに公開し、初月に230万件の会話を処理して、その3分の2をAIだけで完結させています。解決までの時間は11分から2分未満に短縮され、フルタイム700人分の仕事量に相当しました。

ところが翌2025年、同社は有人の窓口を戻します。CEOはコスト削減に寄りすぎて品質が落ちたと振り返っているそうです。定型のステータス確認には効いた一方、複雑な相談や感情を伴う相談では失敗が目立ちました。支払いが滞って困っている方に規約を機械的に返してしまうようなケースです。今もAIは3分の2の問い合わせを処理しており、やめたのは「全部AIに任せる」設計のほうでした。
一方、伸びた事例として英国の電力会社が紹介されました。お客様へのメールの約35%をAIが下書きし、最後に人がトーンと文脈を見て送ります。AIが下書きしたメールのほうが満足度が高く(約70%)、約3分の1の文面は、ほぼ修正なしで送れているとのことです。
国も業種も違う企業が同じ設計にたどり着いています。AIが下書きし、人が確認して出し、その結果に責任を持つ形です。下之角は「マニュアル通りに返すだけなら、AIのほうが速くて正確。人の時間は、お客様の事情をくみ、言葉の裏の不安に気づき、次に困りそうなことを先回りして伝えることに使いたい」と述べました。
3. 導入設計で決める4つのこと
どこまで任せるかは、業務ごとに設計で決めます。下之角が挙げたのは、範囲・材料・出口・確認の4つです。

- 範囲:AIが答えること、答えないことと、受ける窓口を決める
- 材料:答えの元になる資料を選び、AIが読みやすい形に整える
- 出口:人に引き継ぐ条件を決め、会話の内容ごと引き継ぐ
- 確認:AIの回答を、誰が、どの頻度で見るかを決める
この4つが決まっていれば、ツールが何であってもAI導入は進められる、と下之角は話しました。
GMOペパボの設計では、まず全問い合わせをカテゴリー分けし、マニュアルにあるものはAIに任せ、範囲外は人が対応する線引きをしました。ヘルプセンターの記事は、人が読む構成のまま入れず、AIが読みやすい構成に整えてから取り込んでいます。これで回答精度が大きく上がりました。
意図の読めない質問には、当て推量で答えず聞き返す設計にしています。公開前には、動作確認、誤回答(ハルシネーション)の検知、言葉遣いや配慮の確認を、段階的に検証しました。「AIの設定をいじる前に、範囲と材料を決めたことが効いた」と振り返ります。
確認の担当には、サービスごとに1人ずつ「AIリーダー」を置いています。決めずに導入だけ進めると、入れた後に誰も見なくなるためです。
デモ:AIが全件を点検し、人が判定する
確認の運用は、GMO即レスAI for CSのデモ動画で紹介されました。パンのECサイトでAIチャットが動いており、誤った回答をしてしまった場面です。管理画面のハルシネーション分析では、AIが自分の回答を一文ずつ分解してナレッジと突き合わせ、「事実誤認」のラベルを付けて誤りを知らせます。誤りの元になったナレッジの修正案は、赤と緑で差分が示され、「提案反映」を押すだけで修正が完了します。
下之角は、カスタマーサービスで10年働いても、全回答や全対応履歴を読み返せたことは一度もなかったと話します。AIは全件を同じ基準で点検できます。人は緊急度と重要度を見ながら、引っかかった一件を判断して直します。どちらが優れているかではなく、役割分担の話です。

AIは回答の改善案を出し、同じ試験を何度も繰り返します。人は出力を判定し、プロンプトやナレッジを直し、公開してよいかを決めます。ここで注意したいのが、AIの出力を右から左へ流すだけの「ミート・プロキシ」にならないことです。読んで判断し、直して、自分の名前で責任を持って出します。AIの回答が「会社の回答」として責任を問われた事例(Moffatt v. Air Canada, 2024 BCCRT 149)も紹介されました。
自分の判断基準や直感、違和感を言語化してAIに渡すことが、人の仕事です。

AIは導入して終わりではありません。AIが運用ループを回しても、人が巡回して間違いを見つけ、直し続ける必要があります。ナレッジやトーン&マナーを直す作業は、GMOペパボでは新人が担っていました。サービス理解とチューニングの仕方が同時に身につき、教育と品質改善が同じ作業になる。想定していなかった効果だったといいます。
4. よくある失敗と回避策
失敗の多くは、設計で決めていないことから起きます。つまずきの例と回避策は次のとおりです。
- 業務を丸ごとAIに任せる → 工程に分けて、任せる工程だけを渡す
- 資料を整えないまま入れる → 先に資料を整える。古い答えや散らばった資料は、そのまま古い回答になる
- 人に引き継ぐ出口がない → 引き継ぎ条件を決める
- 入れたあと誰も見ない → 確認の担当と頻度を決める
回避策は、導入設計の4項目(範囲・材料・出口・確認)そのものです。設計で決めておけば、そのまま失敗の予防になります。
AIに任せて空いた時間は、部署の外へ
AIが仕事を担う代わりに生まれた時間を、GMOペパボのカスタマーサービス出身メンバーは次の4つに使っています。
- お客様に会いに行く:導入企業に取材に伺い、お客様の言葉を記事にする
- サービスの認知向上に取り組む:検索や生成AIに紹介されるよう、Webコンテンツを制作・公開する
- 人と会う場をつくる:オフラインのセミナーやAI研修を開き、直接話す
- セールスの現場へ出る:問い合わせを受ける側から、提案・販売する側へ
いずれもカスタマーサービスの業務範囲ではありません。下之角自身も、カスタマーサービスから営業、マーケティングへと役割を広げてきたそうです。
まとめ

持ち帰っていただきたい3ステップは次のとおりです。
- 工程に分けて書き出す:件数・時間に加えて、人の待機時間も書く
- 効果×任せやすさでファーストタスクを選ぶ:件数が多く、答えが資料化されたものから始める
- 4つのことを決めてから始める:確認の担当と頻度まで、先に決めておく
AIに任せられる仕事の質と量は、言語モデルがどれだけ賢くなっても、しばらくは変わらないと下之角は話しました。決め手になるのは、AIの出力を見て「これは良い、これはダメ」と判断する基準を、AIに依頼する前にどれだけ言語化できたかです。その基準を書けるのは、現場にいて業務やワークフローの理解が深い人です。
仕事をどれだけ減らせたかという量の話だけでなく、人が手間をかけずに、やりたいことへどれだけ近づけたかという質の領域へ、ぜひ入っていきたいと締めくくりました。
お問い合わせ
一般社団法人 福岡ビジネスイノベーション協会(F-base)
ホームページ:福岡ビジネスイノベーション協会 公式サイト
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